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日本では高齢化が進む中、自宅でテレビの音声が聞き取りにくいと感じるシニア層は少なくない。家族と同居する場合、「音量を上げすぎないで」と互いに気を遣う光景も日常的である。こうした課題に対し、独自の技術「曲面サウンド」でテレビの言葉をくっきり届けるスピーカー「ミライスピーカー」を開発したのがスタートアップのサウンドファン。同社は日本郵政キャピタルから出資も受けており、シニアに“聞こえの安心”という新しい価値を提供すべく活動している。
本記事では、サウンドファンの古田さんと、日本郵政グループで全国の郵便局に商品カタログや物販サービスを提供する郵便局物販サービスの遠藤さんにご登場いただく。サウンドファンの「ミライスピーカー・ミニ」が敬老の日向けのギフトカタログ『敬老の日・秋のおくりもの』に掲載され、郵便局店頭でのデモ機設置が実現した背景には、スタートアップと創業150年を超える企業との協業ならではのストーリーがあった。今回は、サウンドファンと郵便局物販サービス双方の視点から協業の取り組みについて伺った。
インタビュアー: サウンドファンはテレビの音量を上げずに言葉をはっきり聞こえやすくする「ミライスピーカー」を展開していますが、まず、サウンドファンの事業内容と提供するサービスについて教えてください。ミライスピーカーはどのような経緯で生まれ、どんな課題を解決するプロダクトなのでしょうか?
株式会社サウンドファン マーケティング本部 国内セールス部 部長 古田謙太郎(以下、サウンドファン 古田):
我々は株式会社サウンドファンという会社名で音響機器の開発・製造・販売をしている会社です。耳の聞こえにお困りの方向けの「ミライスピーカー」シリーズを展開しています。元々は主に業務用としてミライスピーカーを販売していましたが、現在は一般家庭向けモデルを家電量販店や通販企業、自社サイトで「ミライスピーカー」を販売しています。
ミライスピーカーは、高齢者の方でも、普通のオーディオより聞こえやすいと言われていた蓄音機の形状からアイデアを得て開発されました。この蓄音機のラッパ部分の曲面の形状がヒントとなり開発された特許技術「曲面サウンド」を「ミライスピーカー」は搭載しています。主に、テレビに繋いでご使用いただくもので、高齢の方をはじめ、聞こえにお困りの方でも音量を上げずに言葉がはっきり聞こえるという特徴があります。
インタビュアー: ミライスピーカーの特許技術「曲面サウンド」は、平板を湾曲させた独自の振動板によって、広く遠くまで言葉が明瞭に届く仕組みと伺いました。一般的なスピーカーとの“聞こえ方”の違いについて、もう少し詳しく教えていただけますか。例えば、利用者からはどのような反響がありますでしょうか。
インタビュアー: 「ミライスピーカー」は発売以来、シリーズ累計で40万台以上売れているとうかがいました(※2025年6月末時点)。高齢のご両親へのプレゼントとしても人気が高まっているようですね。難聴の方だけでなく家族皆が快適にテレビを楽しめるというのは、まさに“聞こえる喜び”を届ける製品だと感じます。このプロダクトを通じて、サウンドファンさまが実現したい社会やビジョンがあれば教えてください。
サウンドファン 古田: 日本国内には1,200万人の方が聞こえにお困りを抱えており、高齢化とともにその人数は増えていくと想定されています。このプロダクトを通して、聞こえづらさを抱えている方々とそのご家族のお悩みを解決し「明るく前向きに暮らす人々を増やしたい」というのが目標です。
インタビュアー: 次に、郵便局物販サービスさまの事業内容についても教えてください。郵便局の物販サービスとは具体的にどのようなものなのでしょうか。また、御社のミッションや現在力を入れている取り組みについてもお伺いします。
株式会社郵便局物販サービス 商品部 リーダーマネジャー 遠藤賢(以下、郵便局物販サービス 遠藤):
郵便局物販サービスとは全国2万局の郵便局でカタログを展開している会社です。郵便局に置かれているカタログは、ほとんど私どものカタログです。冊子のカタログ、1枚もののカタログ、ふるさと小包チラシなど様々な形態があります。敬老の日、クリスマス、バレンタイン、こどもの日、母の日、父の日などのイベントカタログや、お中元、お歳暮などを扱っています。また、店頭販売も行っています。
昔からカタログ販売が大きな柱でしたが、インターネットの発達により重要視する方が少なくなってきています。インターネットがなかった時代は全国からお取り寄せができるというのは珍しく人気がありましたが、時代の流れの中で売上も減少しています。これをいかに増やすか、または減少を止めるかが課題です。他のカタログで補填するなど、売上を確保するための方法を考えています。
インタビュアー: 具体的に、サウンドファンと郵便局物販サービスの協業ではどのような施策が実現しましたか。『敬老の日・秋のおくりもの』カタログにミライスピーカーが掲載され、さらに郵便局の店頭への実機の設置も行われたそうですね。これらの取り組みが生まれた経緯と内容について、それぞれ詳しく教えてください。
郵便局物販サービス 遠藤: 初めに、日本郵政キャピタルさまから弊社経営企画部を通じて、商品部にミライスピーカーをご紹介いただきました。敬老の日のカタログが最適だと考え、カタログ掲載時期が近づいたところで提案をお願いしました。弊社内の会議でも「敬老の日にはこのミライスピーカーは非常に適当な商品」と判断され、掲載が決まりました。
サウンドファン 古田: 我々は一般家庭向けの「ミライスピーカー」を発売後、家電量販店で約2,000店舗に取り扱いいただいています。通販系ではテレビ通販媒体での取り扱いがメインで、紙面媒体はまだ限られていました。ご高齢の方は紙媒体をよく見られるため、郵便局様のカタログへの掲載をご提案しました。また、郵便局の店頭でハズキルーペが展示されているのを見て、ミライスピーカーも同様に展示できないかと考えました。
インタビュアー: 郵便局店頭でのデモ設置についてはいかがでしょうか。実機を設置して直接お客様に「聞こえ」を体験してもらう取り組みですよね。
郵便局物販サービス 遠藤: 全国で約100台のデモ機を設置しています。郵便局物販サービスの各事業本部に数台送り、そこから効果的な郵便局に配置しています。中には期間を区切って複数の郵便局で回して使用するところもあります。販売期間は8月1日から9月30日までで、敬老の日カタログと秋の贈り物カタログに掲載されています。
インタビュアー: サウンドファンは2018年に日本郵政キャピタルからの出資を受けて以来、日本郵政グループとの協業を模索してきました。そして今年ついに郵便局物販サービスとの具体的な連携が実現しています。今回実現した協業の狙い・期待することについて教えてください。スタートアップと日本郵政グループが組むことで、どのようなシナジー創出を期待されたのでしょうか。
サウンドファン 古田: やはり郵便局は全国津々浦々にあり、また来局されるお客様も高齢の方も多いということで、非常に弊社の顧客像とも近いため、想定する顧客へのアプローチが実現でき、加えて販路拡大も期待できるため、今回の協業・シナジーの実現は非常に嬉しく思っています。1台でも多く販売できると嬉しいですが、今回は1回目ということで、まず認知していただくことが重要だと考えています。弊社においても8月1日にプレスリリースを出し、認知度を高める取り組みも行っています。
インタビュアー: 今回の協業プロジェクトを振り返って、個人的に印象に残っていることや得られた気づきがあれば教えてください。お互いのチームでのエピソードなど、なんでも構いません。
郵便局物販サービス 遠藤: サウンドファンさまには100台ものデモ機を提供していただき、非常に感謝しています。1台2万円するものを100台提供いただくのは大変なことです。また、システム登録や商品審査など複雑な手続きにも迅速に対応いただき助かっています。
サウンドファン 古田: 大きく伝統的な会社だからこそ意思決定までに時間がかかるかと思いましたが、むしろ逆でした。登録手続きや冊子作成、100台のデモ機提供の提案にも前向きに対応いただきました。これまでの事例では、即座に断られることもありましたが、郵便局物販サービスさまは積極的に取り組んでいただき、弊社代表も驚いていました。
インタビュアー: 最後に、読者の皆様へのメッセージをお願いいたします。
サウンドファン 古田: 全国約100の郵便局でミライスピーカーを体感いただけます。テレビの音がはっきり聞こえるようになったというお客様の満足度の高さには自信を持っています。聞こえのお困りごとをこの製品で解決したいという強い気持ちがあります。自分自身のために購入する方と、祖父母や両親のためのプレゼントとして購入する方が半々位の割合なので、どちらのニーズにも応えられると思います。郵便局様の力を借りて、より多くの方の聞こえの困りごとを解消したいと思っています。
郵便局物販サービス 遠藤: 物販を通じて日本全国の地域の皆様により良い商品を提供したいと思っています。今回デモ機をいただいているので、それを十分に活用して、販売に至らなくても体感していただく機会を提供したいと思います。良い商品を通じて地域の皆様に喜んでいただける商品を、これからも継続的に掲載していきたいと思っています。
高齢化やデジタル化が進む現代において、スタートアップと大企業の協業が生み出すシナジーの大きさを感じる取材だった。音響技術の革新により、「聞こえの課題を解決する」という社会的ニーズに応えるサービスが生まれている。地方の高齢者に最新テクノロジーの恩恵を届けるためには、全国津々浦々に根差した郵便局ネットワークと、スタートアップの柔軟な発想力・行動力の双方が欠かせない。今回の協業はまさに、古くからの信頼資産と新しい技術との融合によって生み出された価値と言える。
サウンドファンと郵便局物販サービスの挑戦は、音のバリアフリー化という新たな市場を切り拓くと同時に、日本郵政グループの可能性を拡げるものでもある。互いの強みを生かし、「聞こえる喜び」を一人でも多くの人へ届けようとする彼らの取り組みに、今後も大きな期待が寄せられる。
文・取材・執筆:日本郵政キャピタル
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