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売るのは資材ではなく、体験価値とトータルコストへのアプローチ ~ 資材スタートアップのshizai(シザイ)と日本郵便の取り組み ~

  • (写真左から)
    日本郵便株式会社
    郵便・物流営業部 兼
    グローバルビジネスソリューション室
    課長:湯地 定裕
    ロジスティクス事業部
    部長:羽場 正信

  • 株式会社shizai
    代表取締役:鈴木 暢之
    共同創業者・取締役:油谷 大希
    アライアンス担当:雑賀 真奈

まえがき

ECの普及に伴い、家庭でも目にすることが増えたダンボールなどの梱包資材。現在では多様な資材が使われ、日本国内の梱包資材市場は約4.0兆円、関連工場は数千にのぼると言われている。一方で、その業界構造について知る機会は少ない。
今回のインタビューでは、「資材」を通じてエンドユーザーの体験価値を高め、事業会社に対してトータルコストの最適化を提案しているスタートアップのshizai(シザイ)と日本郵便の取り組みを取り上げる。

shizaiが提供する価値・サービスとは?

shizaiが提供する価値・サービスとは?

インタビュアー: shizaiのホームページを見ると、顧客リストには錚々たるメーカー・ブランド、そしてスタートアップが名を連ねています。shizaiの提供する価値・サービスについて、教えてください。

株式会社shizai代表取締役 鈴木 暢之(以下、shizai 鈴木): 私たちshizaiは、その名の通り梱包資材に関連するサービスを展開しているスタートアップです。工場や在庫を持たない「ファブレス型」のビジネスモデルを採用しています。

全国の資材工場をネットワーク化して、資材を必要としている顧客に最適な資材製造パートナーを紹介、選定できるソリューションを提供しています。これにより、顧客は梱包資材の仕様やコストを柔軟にコントロールすることが可能になります。

私自身、以前は広告代理店に勤めており、さまざまな業界を俯瞰する中で、梱包資材業界には市場の拡大に対して最適化が進んでいない、いわば“混雑した”印象を持ちました。さらに、発注書をエクセルで作成しPDFにしてメールで送るといった旧態依然の業務フローが多く、令和の今なお改善の余地が多く残されていると感じています。

そこで私たちは、社内オペレーションの効率化を図るため、全国のサプライヤからの見積取得プロセスを迅速かつ標準化する社内ツール「lube(ルーブ)」を独自に開発しました。これにより、サプライヤ選定や価格交渉のスピードが飛躍的に向上しています。
また、顧客向けには、発注書作成を起点として調達全体を管理・効率化できるサプライチェーンマネジメント(SCM)ツール「shizai pro(シザイ・プロ)」を提供しており、発注業務の属人性排除や業務標準化に貢献しています。

株式会社shizai共同創業者・取締役 油谷(あぶらや) 大希 (以下、shizai 油谷): 当社の顧客には、メーカーやブランドに加え、多くのスタートアップも含まれています。初期はD2C(Direct to Consumer)事業者を中心に、アウトバウンド営業で地道に開拓してきましたが、転機となったのはプレスリリースの発信でした(※注)。以降、引き合いが急増し、直近1〜2年では大手企業との取引も増えています。全国各地でセミナーも開催し、新たな接点づくりにも注力しています。

※注 オリジナルパッケージ制作から倉庫選定まで、EC・D2C事業者を一気通貫でサポートする「shizai」を提供する株式会社shizai、総額約1.2億円の資金調達とプロダクトローンチを実施。 株式会社shizaiのプレスリリース(2021年4月5日 12時00分)オリジナルパッケージ制作から倉庫選定まで、EC・D2C事業者を一気通貫でサポートする「shizai」を提供する株式会社shizai、総額約1.2億円の資金調達とプロダクトローンチを実施。 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000077008.html



株式会社shizaiアライアンス担当 雑賀(さいが) 真奈 (以下、shizai 雑賀): 当社の顧客は、やはり通販事業者が中心です。これまでは配送業者の切り替えタイミングでご相談をいただくケースが多かったのですが、日本郵便との連携をきっかけに、より上流の段階からお声がけいただく機会が増えました。日本郵便が全国の通販業者とつながっていることもあり、直近4か月で約100件の引き合いをいただいています。

中でも意外だったのは、四国地方での顧客増です。本来はセミナー実施の後半フェーズで開拓予定だった地域ですが、日本郵便との連携により、想定より早く多数の引き合いを得られました。まさにシナジーが発揮された象徴的な例だと感じています。

shizaiが提供する第二の価値・サービスとは?

インタビュアー: 顧客が気づいていない価値やサービスを提供しているという側面はありますか?

shizai 油谷: 私は「梱包資材2.0」と呼んでいますが、EC事業者は梱包資材に関してもPDCAを回すべきだと考えています。
これまでのEC事業者は「梱包して発送して終わり」が一般的で、受取時のエンドユーザーの反応を見たり、改善したりすることはほとんどありませんでした。Apple製品を受け取ったことがある方は想像しやすいと思いますが、梱包・パッケージによる受取時の体験価値は、購買体験において意外と大きな要素です。

私たちはその体験価値を高めるために梱包資材を提案しています。決して過剰包装を推奨しているわけではなく、エンドユーザーにとって本当に必要なものを提案しています。無地が最適なら無地でも構わないのです。

「梱包資材2.0」の重要な視点の一つは、「梱包資材が体験を届けるメディア」であることです。特にコスメやペットフード分野では、到着から開封、取り出しまでの体験がSNSでどう共有されるかが大きな関心事となっています。

梱包資材がシェア数を左右し、それが売上に直結する以上、梱包はマーケティング機能を備えた重要なメディアだと言えるでしょう。

shizai 鈴木: 私たちが提案する内容の特徴として、単に「梱包資材のコストを削減する」だけの施策の留まらない点があります。

例えば、梱包資材の形を変えることによって、限られた空間により多くの商品を積載することが実現できるようになります。そして、同時に荷受の手間や減らすことが出来ます。

さらに梱包資材を工夫することで、「梱包作業」の工程そのものを減らすことが出来、サプライチェーンを短縮化することも可能です。

梱包資材の価格をN円下げることと、梱包作業の時間をM秒減らすことは、費用管理の面では同じ視点で見ることが出来ます。わたしたちの事業者様に対する大きな付加価値の提供だと考えています。

インタビュアー: 日本郵便との取り組みにおいては、どうでしたか?

日本郵便株式会社 郵物・物流営業部 兼 グローバルビジネスソリューション室 課長:湯地(ゆち) 定裕(以下、日本郵便 湯地): 正直、「ここまで変わるのか」と驚かされました。日本郵便でもさまざまな取り組みをしていましたが、まだ最適化の余地があったと気づかされました。
Shizaiの提案は、コスト削減にとどまらず、商品企画にまで踏み込んだ内容で、最初にコスト面で驚き、次に企画提案の深さにも驚かされました。

日本郵便株式会社 ロジスティクス事業部 部長: 羽場(はば) 正信(以下、日本郵便 羽場): ロジスティクスの要諦の一つは、やはりコストコントロールです。その中で如何に物流費の削減をご提案するのかにチャレンジしておりますが、資材費についてはシンプルに価格でのご提案が中心になりがちでした。

ただ、shizaiとの取り組みを通じて、梱包資材を見直すことにより作業工程そのものにも踏み込みご提案を行うことができるようになりました。
たとえば、資材サイズや内部構造を工夫することで緩衝材が不要となり、資材費の削減はもとより、作業の効率化が可能となります。

日本郵政グループとの事業提携のきっかけと狙い

インタビュアー: shizaiは今年(2025年)の2月に日本郵政キャピタルの出資を受けて、日本郵政グループとの連携を開始していますが、そのきっかけや狙いを教えてください。

日本郵便 湯地: きっかけは日本郵政キャピタルからの紹介です。キャピタルはさまざまな業界とのつながりがあり、その一環として物流パートナーとしてshizaiを紹介されました。

物流には「輸送、保管、荷役、包装、流通加工」の五大機能が必要とされます。日本郵便も「包装」には取り組んできましたが、顧客の要望を十分に満たしていたとは言えません。

たとえば、適切なダンボールのサイズや調達先に悩む顧客に対し、shizaiを通じて迷わず、無駄のないソリューションを提供できるようになりました。

日本郵便 羽場: 湯地が触れた「包装」については、日本郵便のロジスティクス事業全体から見ても、その領域は十分にカバー出来ていなかった「ミッシングパーツ」でした。

以前は顧客の要望毎に営業拠点がバラバラに資材を調達し、仕様やコストにばらつきがありましたが、shizaiの登場で個別最適から全体最適へと進化できました。また、shizaiにとっても、日本郵政グループとの提携は信頼感の後押しになったのではないかと思います。

Shizaiの強みと日本郵政との共創

インタビュアー: すでにshizaiと日本郵便との取り組みでは、共創が進み、シナジーが創出されていますが、ベースとなっている強みは何でしょうか。

shizai 油谷: 当社を単に資材販売という視点で捉えると、ダンボール・箱・袋といった要素しかありません。当社は、従来通り、資材を売れば売るほども儲かるとは考えていないところは、大きな違いではないでしょうか。資材を多重にすれば、それだけ販売価格が上昇しますが、当社はしません。更に言うと、資材が必要ないときは、使わない提案をします。顧客視点で最適解を探し続けるところが、当社の強みの一つであると思います。

shizai 鈴木: 外からは見えにくい部分かもしれませんが、私たちは内部のオペレーションを徹底的にテクノロジーで磨き込んでいます。生成AIなども活用し、同じ作業を人が二度繰り返さなくて済むような仕組みづくりを進めています。

その狙いは、「お客様との会話の時間をいかに増やすか」 にあります。先ほど油谷も述べたように、カスタマー視点での最適解を探るには、まずお客様と向き合う時間をしっかり確保することが不可欠だと考えています。

両社がこれから実現したいこと

インタビュアー: Eコマース、D2Cはこれからのさらに伸びると思われますが、これからの梱包資材市場の展望や求められる要件、事業会社として実現したいことについて教えてください。

日本郵便 羽場: 先ほど、包装という“ミッシングパーツ”がshizaiとの連携によって埋まったという話をしましたが、それによってサプライチェーン全体──川上から川下までを一気通貫で見渡し、これまで見落としていた領域にも新たな価値を提案できる可能性が広がってきました。今後はそうした余白に、どんな打ち手があるかを引き続き追求していきたいと考えています。

物流業界を取り巻く環境は、2024年問題、2026年問題と課題が多い一方、プレーヤー間でのシェア争いが常に続いています。取扱量や売上高の多寡は分かりやすい比較材料ですが、単に売る、増やすではなく、shizaiとの取り組みを通じて、顧客視点での最適化、トータルソリューションを売る企業として、成長することを目指したいと思っています。

日本郵便 湯地: shizaiとの連携を開始した結果、全国の営業パーソンの視野が広がり、提案の幅も広がったと思います。今までは配送のコスト、品質、リードタイムの提案が主だったところに、エンドユーザーさまにおける開封時の体験価値向上など、お客さまの売上向上につながる提案が加わりました。コスト削減で利益は増えますが、売上は増えません。事業をされているお客様の売上、利益の両面からサポートさせていただくことが、大きな命題だと思っています。

shizai 油谷: 資材の最適化のアプローチを通じて、サプライチェーンを理想形に組み替えたいという想いがあります。事業会社のサプライチェーン担当の皆様と課題、悩みを共有し、解決していきたいですね。当社の提供するソフトウエアもその一端を担っていますが、更に踏み込んで、どこまで理想に近づいていけるかチャレンジしたいと思っています。

shizai 雑賀: エンドユーザーの開封体験まで含めた提案も重要になってくると考えています。梱包が差別化要因になることも増えてくると思います。shizaiが関わった資材が今以上に増えていく現場を見ていきたいです。

shizai 鈴木: テクノロジーの力で、サプライチェーンを理想形に近づけたいと考えています。業績が伸びている企業は、サプライチェーンが強い傾向にありますが、その周辺にはアナログな要素や分散したナレッジが多く残っています。たとえばエクセル管理は、一見デジタルでも実態は属人性の高い断片的な運用です。そこに解決策を提示したいと考えています。
また、顧客企業の成長フェーズに応じて最適なソリューションを提供できる体制を、私たちshizai自身が整えていきたいと考えています。スタートアップなら梱包材のコスト削減、ある程度の規模なら作業費の半減が見込めるなど、課題の優先順位はフェーズによって異なります。そこに誠実に向き合っていきたいと思っています。

あとがき

インタビューの中でshizaiの鈴木氏は、「ゴールドラッシュの時代につるはしを売った人」の話を、ECと梱包資材業界の活況になぞらえて語っていた。私の記憶が正しければ、2000年頃、米国のインターネットオークションeBayで最初に10,000件のフィードバックを獲得したユーザーは、梱包材を販売していたセラーだったはずだ。

それから四半世紀が経った今、shizaiは「つるはしを売る」存在にとどまらず、「つるはしに代わる手段を提案する」あるいは「つるはしを使わずに済む方法を考える」といった、より本質的な価値提供を目指している。

そして、ますますサステナブルな取り組みが求められる時代において、shizaiと日本郵便の共創がどのように進化していくのか、今後の動向に注目していきたい。

文/株式会社ディスラプターズ 執行役員 曽根 康司

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