Synergyシナジー

Synergy

片想いから両想いへ。
日本郵便の課題とピーステックラボ社のミッションとの出会い

  • 株式会社ピーステックラボ
    代表取締役社長
    村本理恵子
  • 日本郵便株式会社
    ロジスティクス事業部
    執行役員 五味儀裕
まえがき

まえがき

インターネットの発展に伴い200億通以上あった郵便物の取り扱いは、2021年には149億通になった。一方で、Eコマースやフリマサイトの隆盛に伴い、ゆうパックやゆうメールなどの荷物の量は増え続けている。時代に合わせたビジネスモデルの転換が必要になる中、日本郵便のロジスティクス事業部が出会ったのが、グループ内の日本郵政キャピタルから紹介されたシェアリング・エコノミーのサービスを展開するスタートアップのピーステックラボ社だった。

インタビュアー: 最初に日本郵便のロジスティクス事業部のミッションと課題について教えてください。

日本郵便株式会社 ロジスティクス事業部 執行役員 五味 儀裕: 一般的に日本郵便が担当するビジネス領域というと、「配送」をイメージされると思いますが、ロジスティクス事業部は「配送」から横に拡げ「荷物を作る」ところからはじめることがミッションです。分かりやすいところでいうと、Eコマース事業者様の商品をお預かりして、在庫管理から発送業務までを含めた、いわゆる3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)を展開しています。

ロジスティクス事業部のサービスは2007年の郵政民営化後に認可を受け、2014年から本格展開しているサービスになります。現在は、日本郵便が自前で持つ全国25か所の営業・物流拠点の他に日本郵政グループの一員となったトール・ホールディングスの国内法人の拠点もあります。また、一昨年(2021年)には楽天グループとの物流協業の取り組みも開始しています。

結果、事業規模はこの7、8年で5倍に成長している分野になりますが、日本郵便全体を取り巻く事業環境は大きく変化しています。Eコマースとも関係の深い「ゆうパック」「ゆうメール」を除く、いわゆる「郵便物」は、平成21年度(2009年度)には200億通以上ありましたが、直近の令和3年度(2021年度)では149億通(※1)になっています。

日本郵便は10万人規模の配達ネットワークを持つ組織です。ネットワークを維持するために一定の固定費がかかっているわけで、売上高のトップラインが欠けると収益構造が悪化します。そのため、取扱量の維持が非常に大きい課題でもあります。

※1
平成25年版情報通信白書
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h25/pdf/n4a00000.pdf
令和4年版情報通信白書
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/pdf/n3900000.pdf

インタビュアー: 取扱量の維持という課題を抱える中、今回、ピーステックラボ社との提携に至ったわけですが、ピーステックラボ社を知ったきっかけを教えてください。

日本郵便株式会社 執行役員 五味: 繰り返しになりますが、ロジスティクス事業部では、取扱量の維持の課題と並行して、「配送」から横に拡げるミッションがあります。両利きの経営でいうと「深化」と「探索」にあたると思いますが、「探索」の活動をしている中で、同じ日本郵政グループの日本郵政キャピタル株式会社からピーステックラボ社の話を聞く機会がありました。

話を聞いてみると、これが個人(一人の消費者・ユーザー)としても興味深いビジネスモデルであり、日本郵便の持つネットワークやブランドも含めて事業を拡げていける可能性を感じました。

そして、社会的なキーワードであるSDGs(持続可能な開発目標)のコンテクストを持っている点も非常に共感できました。また、ピーステックラボ社との提携で実現できることを考えていくと、日本郵政グループが2022年のディスクロージャー誌である統合報告書の冒頭でも宣言している『お客さまと地域を支える「共創プラットフォーム」の実現』と将来像が合致していったのです。

インタビュアー: 今回、ピーステックラボ社の事業提携のパートナーとして、日本郵便が加わりました。提携前に期待されていたことはありますか?

株式会社ピーステックラボ 代表取締役社長 村本 理恵子: 実は数年前から事業提携のパートナーとして日本郵便を意識していて、提携案を考えていたのですが、なかなか実現には至りませんでした。言わば、片想いの状態でした。

日本郵便は物流の専門家です。そして、何より郵便局という拠点の存在があります。当社のようなベンチャーが持っていない物流のナレッジ、オペレーション能力、そして拠点というものを全て持っているのが日本郵便でした。ベンチャー企業としては、是非とも協業したいパートナーです。

そして、今回の提携は日本郵政キャピタル株式会社との資本提携という側面もありますが、日本郵政グループの総合力と関係メンバーの方々の積極的な姿勢にも大いに感銘を受けました。この春に倉庫移転のタイミングがあったのですが、日本郵便の東京・国立(くにたち)の倉庫を貸していただけたのです。一か月で引っ越しを完了しないといけないというスケジュールの中、移転を実現し、月末から発送業務が出来るようになったのです。想いが通じたと感じた瞬間でもありました。

日本郵便・郵便局の将来像と重なった。<br>日本郵便から見たピーステックラボ社の魅力

日本郵便・郵便局の将来像と重なった。
日本郵便から見たピーステックラボ社の魅力

インタビュアー: 想いが通じた今回の事業提携ですが、日本郵便・日本郵政グループから見て、ピーステックラボ社が持つ独自性や、将来に向けて期待していることはありますか?

日本郵便株式会社 執行役員 五味: SDGsやシェアリング・エコノミー(共有型経済)といったキーワードは、概念では理解しやすいですが、事業会社で具体化し、事業者・生活者の行動変容にまでつなげていくのは容易ではありません。

ピーステックラボ社は提供サービスを通じて、すでにSDGsやシェアリング・エコノミーといったコンテクストで生活者の共感を得ています。日本郵便の旧来のビジネスモデルは通販に代表されるBtoCがメインです。ここにピーステックラボ社との協業が加わるとCtoBの回収の物流が加わってきます。

日本郵便には全国約2万4千局の郵便局、約18万本の郵便ポストがあります。この2万4千局、18万本に回収物流の機能が付加され、生活者の認知も得ることが出来たら、どれだけの拡がりが出るでしょうか。発送・回収の拠点に加えて、タッチポイントが増えるということは、集客拠点としての機能も追加されます。

ピーステックラボ社との協業は、現業の発展だけでなく、日本郵便が掲げている方向性との親和性もあり、郵便局の将来像と重なったのです。大いなる刺激になっています。

気づいてない不便。未常識を追いかける。ピーステックラボのミッションとは?

気づいてない不便。未常識を追いかける。ピーステックラボのミッションとは?

インタビュアー: ここで改めて、ピーステックラボ社のミッションやビジョン、立ち上げ経緯について教えてください。

ピーステックラボ 代表取締役 村本: 気づいてない不便。これを敢えて「未常識」と言っていますが、「未常識」を追いかけています。インターネット、スマートフォンの時代になって、以前は如何に不便だったことに気づく機会も多いと思います。

私も生活者としても高度成長期の大量生産・大量消費の時代を経験してきましたが、今の日本には、残念ながら高度成長期の豊かさはありません。若者の消費動向も変わってきていると思いますし、そもそも消費がしたくても消費できない事実があります。全員が同じ体験を出来ないという環境になってきました。便利さを知らずに「未常識」のままで終わってしまう世界です。

その「未常識」の非対称性を解消すべく、全員が同じ体験をできるように、貸し借りを通じて体験の平等化を実現していくのが、ピーステックラボのミッションの一つであり、提供するサービスの「Alice.style(アリススタイル)」です。

「電気・ガス・水道、そして、アリススタイル」と言えるように、社会インフラとしての位置づけにしたいと思っています。

ビジネスの着想はロジックの積み上げから

ビジネスの着想はロジックの積み上げから

インタビュアー: 「未常識」というのは、非常にユニークな着想にも見えますが、実際には、どのような過程を経て、事業構想がクリアになっていったのでしょうか?

ピーステックラボ 代表取締役 村本: 事業家にはいろいろなタイプがいると思いますが、私は「ロジック組み立て型」だと思っています。社会環境の変化、技術(デジタル)環境の変化を捉えて、次に起こりうるビジネスを考えていくと、必然的に出てくるビジネスというのがあります。ピーステックラボの前には映像のオンデマンド事業を手掛けていたこともありますが、それも環境変化を捉えた結果のビジネスでした。

翻って、今の社会環境の変化の変化を捉えると、まず明らかに変わったのが、サーキュラーエコノミー(循環経済)の流れです。低消費、低環境負荷。そして、日本の経済環境も変わり、モノを思い通りに買えない人がいる。そんな時代には「手に取って試せる」タイプのビジネスがフィットすると考えたのです。

事業構想の実現にあたっては、反響を確認するためのテスト的なウェブサイトを作り、100名ほどの実証実験を行いました。2016年のことです。ビジネス用語に置き換えるとMVP(Minimum Viable Product:実用最低限の製品)とPMF(Product Market Fit:製品の市場への適合)のプロセスといったところでしょうか。

実証実験の結果は興味深いものでした。高機能ドライヤーや美顔ローラーといった美容系家電の需要が圧倒的に多かったのです。

延滞金なし。800商品を月2,980円で借りられるサービス、高級炊飯器も人気

延滞金なし。800商品を月2,980円で借りられるサービス、高級炊飯器も人気

インタビュアー: 事業構想の話が出ましたが、ピーステックラボでは、2022年3月から定額で商品を借りられる「アリスプライム」を展開しています。どのようなニーズを満たしているとお考えですか?

ピーステックラボ 代表取締役 村本: 3万円以上もするような、買うのをちょっとためらうような家電製品をちょっと試してみたいというユーザーは多いと思います。

「アリスプライム」では、月2,980円(税込)で、約800種もの家電製品や商品をレンタルすることができます。いろんな商品がつまっている自分の倉庫を持って、好きなときに取り出せて使える仕組みです。みなさんのご自宅にも1年に1回しか使わないものも多くあると思います。試したい、たまにしか使わないけど置き場がないといったニーズに向き合っています。

サービスを開始した中で工夫もしています。スタート時は、1週間、2週間といったレンタルにしていたのですが、ユーザーには「返却するストレス」があることに気がつきました。みなさんの中にもレンタルのDVDを返す暇がなくて、延滞金を払った記憶がある方もいるでしょう。「アリスプライム」では、借りっぱなしも出来ます。

約800種の内訳ですが、7万円もするような「高級炊飯器」も人気です。あとは季節モノであるヒーターや空気清浄機、トランクルームにしまうような製品です。そして、話題商品、テレビやインターネットで話題になった商品を「ちょい使い」したいような需要があります。

商品の選定にあたっては編成チームを組んだ対応しています。特に重視しているのは「アリスプライム」で検索されたけど、結果がヒットしなかった商品」です。そこは大きな需要のプールです。ある日「絹女(きぬじょ)」というキーワードが検索されていたことがありました。調べてみると高級ヘアケア製品の名称でした。

インタビュアー: 定額で商品を借りられることは、ユーザーにとっては非常にありがたいですが、メーカーにとっては売上減になる可能性も内包しているように見えます。それでもメーカーが商品を出す意図やメリットは何でしょうか?

ピーステックラボ 代表取締役 村本: 商品を認知しても実際に買う人は一部だと言われています。ECサイトを見て、見たページの商品を全て買う人はいないでしょう。一般的には100人に10人いればいいほう、実際は数名だと思います。買わない理由は、価格が高いとか、実際に手に取ってみないと分からないとかです。ビジネスとしては90人のマネタイズに失敗しているわけです。

「アリスプライム」では、商品を提供していただいたメーカーには、ユーザーが利用する度に使用料が支払われます。そして、使ってみて良ければ、実際に購入に至るでしょう。90人分のマネタイズのお手伝いをしているのです。

他にはサンプリングやテストマーケティングの機能も担っています。メーカーの商品を取り扱う場合は、たいてい営業系の部署との取引が中心になりますが、「アリスプライム」では、メーカーのマーケティング系の部署とも濃密に取引させていただいています。

サービス満足度向上とこれからのチャレンジ

サービス満足度向上とこれからのチャレンジ

インタビュアー: 立ち上がった「アリスプライム」ですが、今後のサービス満足度向上の作戦を教えてください。また、ユーザーからは見えない運営上の苦労や工夫はありますか?

ピーステックラボ 代表取締役 村本: レンタルサービスは「モノが戻ってくる」サービスです。次に使う人には、綺麗な状態にすること、言い換えれば「使った気配がない」状態にしてお渡しすること心がけています。「アリスプライム」を使っていただいた方が、周りの方に薦めるサービスにすることが大事だと思っています。その「使った気配がない」にするためのノウハウや効率化にも努めています。

日本郵便株式会社 執行役員 五味: オペレーションで協業する日本郵便としても、もし借りた「高級炊飯器」が汚れていたらユーザーがガッカリすることは分かっています。いままでのBtoC型のオペレーションから、回収・リファービッシュ(再生)・配送のCtoBtoC型に対応していくための設備・業務フローの構築、日々の改善に努めています。

IT面では、商品を独自のシリアルナンバーで単品管理して、商品の状態から貸し出した回数の記録といったデータ取得とDX化を推進しています。ピーステックラボ社とは現場レベルで毎週定例会議を行い、改善の意見交換とディスカッションを行っています。

インタビュアー: オペレーション以外のビジネス面のチャレンジは何か考えてらっしゃいますか?

ピーステックラボ 代表取締役 村本: 体験を拡げると意味は、炊飯器と一緒にお米を売るような展開も考えています。そして、地域活性・再生への貢献への動きもしていきたいです。将来的にはフランチャイズビジネスも展開できるようにして、取次制を導入して、リアルでのユーザーとの接点を拡大したいですね。

組織の面でいえば、ピーステックラボのビジネスを面白いと思ってくれる仲間を増やしたいです。ユーザー接点があることが好きで、ユーザーとしての立場、メーカーとしての立場が理解できる仲間が増えて欲しいと思っています。

日本郵便株式会社 執行役員 五味: 物流は競争の激しい分野です。郵便事業は150年の歴史がありますが、ロジスティクス事業部のビジネスは、業界では後発です。既知の知見を生かせる後発の強み、また、これは日本郵便の特性でもありますが、バイクでの配達を含めた小さいものを運ぶネットワーク、そして、郵便局の存在があります。ここを生かしてチャレンジを拡大したいです。

今回のピーステックラボ社との取り組みではリファービッシュという領域にも取り組んでいますが、両社の強みと可能性を更に拡げていきたいと思っています。その中で新たなビジネスパートナーの発見やお声がけがあると嬉しいですね。

あくなき事業探究の源泉と、これからのスタートアップに伝えたいこと

あくなき事業探究の源泉と、これからのスタートアップに伝えたいこと

インタビュアー: 村本代表は、ビジネス界で十分に成功を重ねてらっしゃると思いますが、2016年にピーステックラボを立ち上げてらっしゃいます。この事業意欲源泉は何でしょうか?

ピーステックラボ 代表取締役 村本: 私自身、好奇心が強いというのがあると思います。AI(人工知能)もここにきて急に次元が違う変化をしました。そういった体験できる場にいることが好きなんでそうね。インターネット検索も20年ちょっと前にGoogleが登場して一変しました。そしてスマートフォンの登場。この20年の変化は、その前の20年の変化とは遥かに違う変化があったと思います。

そして、ビジネスでも大きな失敗、小さな失敗をしてきていると思います。その経験から見えてくるものが、次の事業構想の意欲や推進力にもなっています。

例でいうと、私がビジネスで物理的な「モノ」を扱うのは初めてです。それまではコミュニティーやオンラインのデジタルなサービスを手掛けていました。ピーステックラボでは、トヨタ社と一緒にサブスクリプションの実験もしています。私自身が実際の店頭に立って生の会話を聞いています。デジタルだけでは経験できないリアルの体験です。そのリアルな体験と過去のデジタル経験での知見の融合がどうシナジーを生むのか考えるだけで、好奇心が湧いてくるのです。

インタビュアー: 最後に、これからベンチャーキャピタル(VC)や外部からの資本提供を受けようとしているスタートアップにアドバイスをお願いします。

ピーステックラボ 代表取締役 村本: 私よりもいいアドバイスが出来る方は、あまたいると思いますが、私自身の経験でいえば、ひとりよがりにならず「自分のビジネスを、どう相手(VC)に理解してもらうか」の視点を常に持っておくことが大事です。そして、相手が事業会社系のコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)の場合は、本気で「どう組めるか、組みたいか」の点を明確にして、プレゼンテーションすることが大事です。私の場合は事業会社のホームページの隅から隅まで、投資家向け資料(IR資料)も読んでから臨んでいます。

そして、一緒に作る、共創の概念も重要です。お金だけではありません。ある企業との取り組みでは、担当の方から提携後に一緒に作っていく姿勢、そこを見ていたと言われたことがあります。自分のビジネスを信じて、一緒にやっていこうとする姿勢が伝われば、相手の理解も進みます。自分のビジネスを信じることと、相手の理解、その両方を忘れないで欲しいと思います。

あとがき

あとがき

総務省の情報通信白書で「シェアリング・エコノミー」という言葉が出てきたのは、平成27年(2015年)である。村本代表は環境に対する企業の姿勢が「ここ3年で変わった」とおっしゃっていた。そして、SDGsやESG(環境・社会・企業統治)というキーワードは紙面やニュースで見ない日が無いというぐらいに浸透してきた。シェアリング・エコノミー(循環経済)におけるピーステックラボ社、日本郵便の存在感がどう大きくなっていくか、生活者視点で注目していきたいと思ったインタビューであった。

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