Synergyシナジー

Synergy

市場規模は1.7兆円。
買い物客は世界中からやってくる。
WAmazingとRING BELLが狙う巨大市場。

  • リンベル株式会社
    執行役員経営戦略本部広報担当 庄司寛康(中央左)
    新規事業推進本部企業開発本部 天野英介(左)
  • WAmazing 株式会社
    代表取締役 CEO 加藤史子(中央)
    事業開発責任者/Co-Founder
    青木里美(中央右)
    プラットフォーム事業部
    諸留枝里子(右)
まえがき

まえがき

リクルート出身の加藤史子が日本の地域と観光産業に貢献する目的で、WAmazing(ワメイジング)を立ち上げたのは2016年。コロナ禍を乗り越え、OTA(Online Travel Agent)事業と地域観光DX事業で、再び成長に向け走り出している。

一方、ブライダルギフトの企画開発・販売会社として設立されたRING BELL(リンベル)の創業は1987年。今やカタログギフトの最大手として、2023年には年間売上高800億円を達成している。

その二社が組んだのが、WAmazingのインバウンドの訪日客を対象とした「免税ECサービス」(※1)である。

「免税ECサービス」とは、訪日客がいつでも免税価格で商品を購入予約し、訪日前後のタイミングで主要空港など(※2)に設置された「免税販売機能付き自動販売機」(※3)で商品を受け取ることが出来るサービスだ。

今回、その「免税ECサービス」という新しいビジネスモデルと今後の拡がりについて、WAmazing株式会社とリンベル株式会社のメンバーにインタビューした。

1.7兆円、訪日客の巨大な<br>買い物需要

1.7兆円、訪日客の巨大な
買い物需要

インタビュアー: 2021年10月の税制改正で免税販売の新制度(自動販売機型輸出物品販売場制度)が施行となったことに伴い、国税庁指定第一号としてWAmazingの「免税販売機能付き自動販売機」が指定されたそうですが、この新しいビジネスモデルの着想に至った経緯を教えてください。

WAmazing株式会社 加藤 史子 代表取締役 CEO: まず、マクロの視点で、市場規模の説明からさせてください。訪日客の消費は巨大です。観光庁のデータ(※4)によると、新型コロナウイルスの影響が出る直前の2019年の訪日客の消費額は、全体で約4.8兆円ありました。そのうち買い物が約1.7兆円、そして、宿泊が約1.4兆円、飲食が約1兆円、交通が約0.5兆円、アクティビティが約0.2兆円と続きます。

買い物(インバウンド消費)は2023年4月~6月の段階で、2019年同期の95%まで回復(※-5)しており、さらに2024年の訪日客数はJTBの予測で3,310万人(※6)と、コロナ前の2019年を上回り、過去最高となっています。

わたしたちWAmazingは、最初の二文字が「WA」に大文字になっているように「和」の魅力を世界に発信することを創業時からのビジョンにしています。インターネットに目を向けると、訪日客を対象としたインターネット・ビジネスは、宿泊、飲食、アクティビティの分野には大手含め、存在感あるプレーヤーが居ますが、買い物分野にはいませんでした。

そこで、WAmazingでは、その五大消費のうち、買い物をアメイジングにしていこうと、買い手と売り手を結ぶマッチングプラットフォームを創ろうと思ったのです。それが「免税販売機能付き自動販売機」の開発へと、つながっていきます。

新しいビジネスモデル <br> 「免税ECサービス」

新しいビジネスモデル
「免税ECサービス」

インタビュアー: WAmazingが考えた免税品の受け取りに自動販売機を使うというビジネスモデルは、稀少性と模倣困難性を備えているように見えますが、実際はどのように立ち上がっていったのでしょうか?

WAmazing株式会社 加藤: 買い物をアメイジングにしていこうとしていく中で、「訪日客がオンラインでも、消費税免税の価格で買い物が出来たらいいね」と、WAmazingの共同創業者のうちの1人であり事業開発責任者でもある青木が言ったのが、きっかけです。

WAmazing株式会社 青木 里美 事業開発責任者/co-founder: 時系列で説明すると、訪日客が消費税免税で買い物が出来る仕組み自体は、2019年に既に開始していました。店舗に陳列してある商品を購入するのではなく、事前にオンラインで購入予約した商品を「手渡しするカウンター」を設置し、人による免税手続き・決済を経て受け取ってもらう方法です。

「手渡しするカウンター」は、2019年10月~12月にかけて、仙台空港・東京モノレール羽田空港第3ターミナル駅・JR東日本 成田空港駅改札内、JR東日本 空港第2ビル駅改札内で順にスタートし、台湾でメディアを集めて発表もしていたのですが、ご存じのように、直後に新型コロナウイルスが猛威を振るい、インバウンド需要がゼロになりました。

その後、非接触・非対面型というモデルで再スタートしたのが、当社の「免税販売機能付き自動販売機」なのです。

インタビュアー: WAmazingは、以前から空港に置いてある自動販売機でSIMカードを受けとるという新しいビジネスモデルで注目されていました。今回の免税販売機能付き自動販売機において、その経験や知見は生きましたか?

WAmazing加藤: はい。最初は成田空港に無料SIMカードの配布マシンを設置したのですが、スタートアップ企業を創業していきなり巨額の投資をするわけにはいかないので、PoC(プルーフ・オブ・コンセプト:概念実証)ということで、中古のタバコ自動販売機を20万円程度で買ってきて、板金で手作りしていく形でスタートしました。
WAmazing では、SIMカードの他にも、JR東日本が提供している東京ワイドパス(正式名称:JR TOKYO Wide Pass)という、訪日客向けにグレーター東京と呼ばれる東京近郊の特定エリア内が3日間乗り放題になるチケットがネットで購入でき自動販売機で受け渡しされるというサービスを運営しています。この自動販売機はゼロから開発しました。

WAmazing青木: 今回の「免税販売機能付き自動販売機」は、さすがに全てゼロから手作りすることは難しく、大手の事業者との協業により、実機を完成させています。

一方で、機械そのもののコンセプトは変わっていません。SIM自販機から始まり、免税販売機能付き自動販売機に至るまで、同じパートナー企業と協業し、サービスの根幹部分はWAmazingの社内エンジニアが開発する体制も一緒です。その意味では、SIMカードからはじまった自動販売機を活用したサービス開発の経験・知見は十分に生かさせていると思います。

カタログ通販最大手との<br>組み合わせの「妙」

カタログ通販最大手との
組み合わせの「妙」

インタビュアー: 今回の「免税ECサービス」では、リンベル社が商品提供にかかわっています。その役割について教えてください。

リンベル株式会社 庄司 寛康 執行役員 経営戦略本部広報担当: 日本から海外へ行う輸出ビジネスは、輸入国側の法規制をクリアする必要があります。特に化粧品や薬品、そして食品は規制も多く、対象商品を一点一点確認するとなると膨大な労力がかかります。

その点、WAmazingの提供するビジネスモデルは、お土産を日本でデリバリーするというモデルになります。

WAmazingというビジネスパートナーを得たことで、われわれのビジネスは法規制の点も含めて自由度が広がりました。

また、WAmazingには訪日客の膨大なデータ、われわれには動向調査にも適用できるデータがあります。現在も定期的に打ち合わせをしていますが、さらに連携してカスタマー・ニーズをしっかり汲み上げていきたいと思っています。

リンベル株式会社 天野 英介 新規事業推進本部 企画開発本部: 実務的にはスイーツ・食品を中心にWAmazingのECサイトであるWAmazing Shopに商品を提供しています。ポイントとしては、やはり「お土産」の視点での商品選定です。具体的な商品選定においては、WAmazingのメンバーと連携して選定しています。

我々はカタログギフトのプロですが、WAmazingはインターネット・ビジネス、そしてインバウンド訪日客に対するビジネスのプロです。両者で海外のニーズを汲み取り、どの商品を提供すべきかを考えています。

また、リンベルでは、いままで輸出は手掛けていましたが、インバウンドの訪日客を対象にしたビジネスは展開していませんでした。当社のビジネス領域としては、全くのニューマーケットになりますので、大いに期待しています。

WAmazing株式会社 諸留 枝理子 プラットフォーム事業部 事業開発グループ: 商品選定では、まず、賞味期限の長さに注意しています。注意するというよりは、現在のビジネスの特性上、賞味期限がある程度長くないと対応できません。

別の視点では「パッケージの映りの良さ」は重視しています。インターネットサイトでは、実物の大きさや香りを伝えることが出来ない以上、商品の魅力を伝える上で、写真が非常に重要になります。

わたしたちの強み、ケイパビリティとしては、日本在住の外国籍のメンバーが約3割在籍している点もあります。元々、訪日外国人旅行者の旅行予約サービスを運営していたことにも起因するのですが、外国の消費者の求めるもと、消費者実感をダイレクトにサイトやサービスに反映することができます。

日本郵政キャピタルの橋渡し

日本郵政キャピタルの橋渡し

インタビュアー: WAmazing株式会社とリンベル株式会社の取り組みは、まさに、組み合わせの「妙」といった印象があります。両者が協業に至った(出会った)経緯と、橋渡し役となった日本郵政キャピタルの役割について教えてください。

WAmazing加藤: WAmazingでは、昨年(2023年)の12月に、エクイティファイナンス(シリーズC2)として14億円の調達を行いました。その際、株主に入っていただいたのが、日本郵政キャピタルです。

出資にはフィナンシャルリターンを主とする純投資と、事業としてのシナジーやリターンを求める事業系投資がありますが、日本郵政キャピタルの出資目的は後者の事業系投資だと聞いていました。

日本郵政キャピタルの動きは速く、調達後、担当の方が、WAmazingとシナジーが生み出せそうだということで、日本郵政グループの株式会社郵便局物販サービスが出資しているリンベル社を早速紹介してくれました。

リンベル 庄司: わたしたちは1987年に創業し、2014年に株式会社郵便局物販サービスから資本業務提携を受け、関連会社として事業を運営してきました。

カタログギフトの運営者としては、4千社以上から4万点以上の商品を取り扱っています。この膨大なアセットをどういかしていくかは経営上の大きな命題ですが、日本郵政キャピタルから免税ECサービスという事業を展開しているWAmazing社を紹介されたときは、これは大きな可能性あると感じました。

「免税ECサービス」の手応えとこれから

「免税ECサービス」の手応えとこれから

インタビュアー: 免税販売機能付き自動販売機は2022年11月からサービスを展開しています。1年少し経過しましたが、手応えはいかがですか?

WAmazing青木: まず、定量的なところでは、ユーザー数は開始当初の10倍になっています。

免税販売機能付き自動販売機のサービスを開始した2022年11月は、新型コロナウイルスが収束に向かう中で渡航ビザの制限が緩和された「インバウンド開国」と重なる時期だったこともあり、利用者は順調に伸びています。開始から1年強ではありますが、リピーターも既に6.3%おり、中には既に5回も利用している方もいます。嬉しい限りです。

データを見るとSNSの影響も大きいと感じています。仙台空港での利用が急激に伸びたので、調べてみたら、SNSでの拡散が起点だったと分かったこともありました。

WAmazing加藤: 直近の円安や内外価格差の影響もあるかも知れませんが、外国人旅行者の買い物単価自体は上昇傾向にあります。WAmazingのお客様のご利用単価はまだ1万円強ですが、徐々に上がっていく傾向は見えています。

地域別では台湾からの訪日客に、現在は一番多く利用いただいています。受け取りまでのリードタイムも長くなっていて、現状は平均3週間程度と、かなり長くなっています。

有名なお菓子などの場合、国際線ターミナルの売店で売り切れていたりする場合もあるので、前の旅行で認知はしていたが買えなかったお菓子をWAmazingで購入いただくケースもあるようです。

インタビュアー: 日本の国内消費は、人口減少や高齢化によって、あまり強気な見通しが立っていないのが現状と思います。その中で訪日客を対象とした「免税EC」のマーケットは、どのような意味を持つでしょうか?これからについて教えてください。

リンベル天野: 中国中間層の訪日客の消費には期待しています。コロナ以前は巨大な消費を牽引していた層なので、この層が戻ってくれば、さらに需要が伸びるでしょう。

商品ではナショナルブランドの販売に加えて、PB(プライベート・ブランド)の販売もしていきたいですね。より自由に価格設定が出来ることによって、収益性のアップも期待できます。

リンベル庄司: リンベルに対して「結婚式の引き出物の会社」というイメージをお持ちの読者の方もいるかも知れません。

日本で婚姻数が一番多かったのは、いまから50年以上前の1972年。約100万組の方が結婚されていました。2021年の速報値では約51万組と、約半分になっています。(※7)

このデータからの類推できるように、ギフトなど、儀礼的なものは減少傾向にあることは変わりないですが、その間もリンベルの売上は伸びています。

その答えの一つとして、「顧客ニーズへの理解」があります。

かつて、結婚式の引き出物やギフトは、贈る人が起点となるサービスでした。リンベルは、それを選べるギフトというかたちで「受け取る側のニーズ」に転換して、事業として伸びてきたのです。

訪日客にも「お土産を買う側のニーズ」そして、その先の「お土産を受け取る側のニーズ」があるはずです。WAmazing、日本郵政グループ、リンベルという三者の強みを生かして、市場のニーズを捉えていきたいですね。

WAmazing青木:: ビジネスを運営していての経験則でもありますが、「同じ商品でも見せ方を変えるだけで売れる。」という現象を見てきました。顧客のニーズは商品そのもの以外にも、魅力的なパッケージのデザイン、買いやすい包装数、商品単価をいったものも存在しています。

商品の掘り起こしだけでなく「売り方」の追求もしていきたいですね。

WAmazing加藤: WAmazing ECのサービスとしては、受け取り場所の多様化や、商品配送におけるロジスティクスの改善など目先の課題もありますが、訪日客のボリュームの増加は大きなポイント、商機だと思っています。

さきほども申し上げたように2024年の訪日客数はJTBの予測で3,310万人です。

2016年に日本政府が策定した「明日の日本を支える観光ビジョン」では、2030年には訪日外国人旅行者数6,000 万人、訪日外国人旅行消費額15 兆円とする目標を掲げています。(※8)新型コロナの影響で進捗は遅れましたが、直近の回復力を見ると非現実的な数字ではないでしょう。

6,000万人で15兆円というと、ちょっと数字が大きいですが、計算すると訪日一般客一人当たりの消費額は25万円になります。

一方、日本国内在住者の年間消費は1人平均130万円/年間となっています。(参考資料の観光庁最新資料を添付します)

これが何を意味するかというと5人の訪日客で、日本人1人の「年間消費」をカバーすることができるということです。これは、わたしたちのビジネスだけでなく、日本経済にとっても大きなインパクトになると思います。WAmazingとリンベルの協業を通して、顧客への提供価値ともに、社会・経済への貢献もしていきたいです。

編集後記

編集後記

今回のインタビューで意外な盛り上がり見せたのは山形県の話題だった。リンベル社の物流拠点は山形市、現在の代表も山形市出身である。WAmazingの加藤も山形県のポテンシャルに以前から注目しており、ただならぬ縁を感じていたそうだ。

Snowa activityの予約サービス、WAmazing Snowで、台湾からの訪日客に人気があるのは、山形の蔵王温泉スキー場。温泉とスキーが同時楽しめる場所として認知されている。WAmazingでは、北海道や京都府などに比べて、まだまだ訪日客が少ない山形県の魅力をもっと知ってもらいたいと常々思っていたことが分かった。

山形県というキーワードでもつながった両者のこれからが楽しみである。

※1
※2
新千歳空港、仙台空港、JR東日本 成田空港駅改札内、JR東日本 空港第2ビル駅改札内、東京モノレール羽田空港第3ターミナル駅改札内、JR関西空港駅改札内、広島空港、中部国際空港(アクセスプラザ)、JR 博多駅、西鉄天神高速バスターミナル、那覇空港。

※3







※4
2019年の訪日外国人旅行消費額(確報) ~ 国土交通省 観光庁
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001338023.pdf

※5
観光庁説明資料 令和5年9月6日(水)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001628576.pdf

※6
2024年(1月~12月)の旅行動向見通し ~ 株式会社JTB  2023/12/20
訪日外国人旅行者数は3,310万人(対前年131.3%、対2019年103.8%)と推計
https://www.jtbcorp.jp/jp/newsroom/2023/12/20_jtb_2024-annual-outlook.html

※7
男女共同参画白書 令和4年版 ~ 内閣府
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r04/zentai/html/honpen/b1_s00_01.html

※8
観光立国推進基本計画 ~ 令和5年3月31日閣議決定
https://www.mlit.go.jp/common/001299664.pdf

※9
第1部 第1章 第6節 (1)家計消費、物価の動向 ~ 消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/2020/white_paper_121.html

文/株式会社キャリアインデックス執行役員 広報・IR担当 曽根 康司

Next